第2話

 「え?」


 突然のことすぎて頭がパンクする。

   

 「あの、どこかで私たちお会いしたことありますか?」

 「いえいえ、初対面っす」

 

 その人の身長が低めなのと私の背が高いのとで私の方がひとまわりくらい大きいのだが、それでも十分怖い。

 正直に言ってお金は喉から手が出るほど欲しい、けれど今のままでも、贅沢をしなければギリギリ暮らしていけそうではある。

 ただ、ただ、

 

 「僕とデートしてくれません?朝からこの公園で待ち合わせだったんですけど、ばっくれられちゃって」

 

 う、嘘だ。私の名前、知ってたもん。

 

 「でも、知らない人だし…」

 「僕じゃ、ダメですか?」

 

 彼は上目遣いで私のことを見つめる。

 顔が、タイプすぎる。ていうか好みのど真ん中を射抜いてきている。

 肩くらいまである、金髪の毛を後ろで結んでいて、少し、女の子っぽい、可愛い顔をしている。

 これで、女の子だったらな〜、でもそんなことありえないか…

 そう、私は正真正銘、レズビアンである。

 あるはずなのだが、彼のあまりの可愛さに。


 

 「なっなせさん!なっなせさん!」

 隣でスキップをしながら歩いている彼はさらに私を虜にした。

 か、かわええ。


 「七瀬さん、そろそろお昼ですし、一緒にどう?」

 

 キャー、急なタメ口来たッー

 一人で悶絶していると、原因が自分だとも知らずに彼がやってくる。

 

 「は、はい」


 レストランに着くと、彼が前に出て言った。


 「あの、予約していた神谷です」

 「はい、お待ちしておりました。神谷瑞稀様ですね、奥のテーブルはお願いします。」


 よ、予約してあるのー!!?


 その後も夕方になるまでデートは続いた。


 夕方、私は一度も彼の名前を口に出すことなく、別れを告げようとしていた。

 

 「えっと、あの、私そろそろ」

 「うん、七瀬さん、いや晴香、じゃあ行こうね」

 「あっ」

 急激な痛みが全身に広がり意識は途絶えた。


 「ううっ、」

 

 目を擦ろうとして、腕を上げようとするが上がらない、というか、全身が動かない。

 四肢を動かしても鎖同士がぶつかり合う音だけが、部屋に響いてた。


 「あ、起きた?はーるか」

 

 神谷さんの声が聞こえ、安心する。

 もう、神谷さんのことが好きになる手前だった。

 あとはレズビアンという事実さえなくなれば。

 

 「ええっと、ここはどこですか?」

 「さあね。それよりほら、口開けて、気持ちよくなるお薬のみまちょうね〜」

 「いや!ゔぁめて、ゴホ、ゴホ」

 

 クラクラとする甘い香りと、全身が宙に浮いたような感覚が気持ちよくて、視界がおかしくなる。

 恐怖でか、はたまた勝手に身体が期待しているのか、顔も大事なところもぐしゃぐしゃだった。

 

 「な、なんで、こんなこと」

 「だって、」


 そう言って神谷さんは上に着ていたふくをぬぐ。

 あれ、この膨らみって…


 「僕、女だから」


 

  

 

 

 

 

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