第26話

気がついたら、俺もヒロも秀ちゃんも、相手側の残りのメンツも、全員入り乱れて取っ組み合いになっていた。


ふざけんなと、何度も何度も叫んだ。

こんな茶番で、俺のチャマを、うちのバンドを、俺らの大事な曲を…

そう思う端から、目の前のバカどもは汚い言葉をぶつけてくる。





「藤原テメェ、何様のつもりだよ!どんだけ売れてるったって、結局は、実現できねぇ理想言ってるだけだろうが。きれいごと言ってるだけだろうが!」


「きれいごとがどんだけ人を傷つけんのか、想像もしねぇでやってんじゃねぇか!」


「負け組の気持ちがわかるフリをし続けてるだけで、結局は勝ち組なんだろうが!」


「おまえらがどんだけの人間を傷つけてきたか、わかろうともしねぇでよ!!」





連中の血を吐くような叫びを前にして、俺は言葉を失った。

足もとが抜けるような、底知れない闇が迫ってくる。


社会的な、経済的な成功を収めた、勝ち組。

俺たちをそう呼ぶのだとしたら。

…もう俺には、真の意味で“負け組の気持ちを理解する”ことは出来ない?


つーか、負け組って失礼な。

だって俺たちは、負け組と紙一重の生活だぜ?

売れなくなったら容赦なくレコード会社との契約切られて、放り出される身だぜ?


職歴から考えても、それ以降の就職なんてとても見込めない。

そんじょそこらのニートには絶対に負けない、天下無敵の負け組になっちまう。

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