第21話

藤「チャマ、さっきの脅迫状プリーズ」

直『イエッサー』

升「どうした?おまえ、指紋特定の技術とか持ってたっけ?」

増「それとも筆跡鑑定でもするつもり?」



升増コンビは揶揄するような口調だが、俺は真剣そのもので。

4人でのぞきこんだそれには、やはり紛れもなく、俺の予想通りの“証拠”があった。

ちなみに、指紋とか筆跡とかの発言は、あながち大ハズレでもない。



藤「やっぱりな。見ろよ、ここ」

直『えー?…あ!なるほどっ!』

増「はっはーん。こんなに目立つ特徴がねぇ。まぁ気がつかなかった俺らもマヌケか」

升「あいつ、これで俺らに宣戦布告してきたつもりか…?」



脅迫状の“零”という字だけが、異様に大きい。

もちろん、新聞の切り抜きの中にそのフォントしかなかった、とも考えられるが。

それにしては、偶然が出来すぎだと思う。


なぜなら“零”は、あいつらと俺たちが対バンで同じステージに立ってた頃、遊びで使っていたサインだったからだ。

一から始めるんじゃない、ゼロから始めるんだ。

そう言って、あの頃の俺らはイキがっていた。


この字を使っていた当時の、10代という年齢を思い出す。

若さなんて意識もしないほど、若かった。

自分が歳をとるということがどういうことか、何もわかっていなかった。

想像する力すら持っていなかった。



増「“零”か。そういえばそうだったね。忘れてた」

藤「つまりあいつは、端っから俺たちに正体を明かすつもりで、こんなトンデモなことをしでかしてくれたワケだ…」

直『…でも、微妙に懐かしいのは…反則だよなぁ』

升「待てチャマ、ほだされるな。被害者はおまえなんだから」

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