第19話

増「別に深い理由はないよ。昔あいつに絡まれたことがあって…さっき急に思い出しただけ」

藤「絡まれた?」

増「大してギターも上手くねぇのに、調子乗ってんじゃねーぞってさ」

直『………』

升「…ふーん…これは偶然か?」



さっき脅迫文を読み上げたのと同じ秀ちゃんの声が、今は異様に低く聞こえる。

怒りや冷静さを含んで、色が感じられない声音。

チャマは落ち着かない瞳で、昔のことを色々思い出そうとしている様子だ。



升「チャマ、どうだ。さっき言ってた黒ずくめの男ってのは、あいつか?」

直『…わからない。背格好は、似てるっちゃ似てるけど…』

増「…うん。ごめん、そうだよね。何の証拠もないのに、急に疑うのもアレだよね」



でも、思い返せば彼はここ数ヶ月の間ずっと、俺たちの現場雑用係をしている。

つまり、当然のように俺たちのそばにいる。

雑用自体は、入ったばかりのスタッフの当然の仕事かもしれない。

けど。



升「うーん。まさかとは思うけどなぁ」

藤「だとしたら、ずいぶん近くにいて、俺らのことおちょくってくれてたんだなぁ…?」

増「チャマ、どうしたの?もしかして何か心当たりあるの?」

藤「あると言えばあるだろ」

直『…いや、うーん』



チャマ自身に問いただすまでもない。

あいつは昔、ヒロだけじゃなく、チャマをも狙い撃ちにするかのように絡んでいた。

当時地元のライブハウスで一番人気だった俺たちに嫉妬していたんだろう。


それはまるで、チンピラがおとなしい子を狙ってカツアゲしてるみたいな雰囲気で。

俺や秀ちゃんがさりげなく割って入ったことも何回かあった。


というか、俺や秀ちゃんみたいな“絡んでも大してダメージを与えられなさそうな、下手したら論破されそうな人間”には寄ってこなかったあたり、小心者だと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る