第9話

スタジオに戻ると、チャマとスタッフが待ち構えていた。

顔なじみの雑誌記者とカメラマンの姿もある。

…そうだ、今日はここで取材があるんだっけ。



直『あっ、みんなどこ行ってたんだよ!取材始まるよ』

増「あーごめんなさい、もうそんな時間だったんですね」

記「いえいえ、レコーディング中に押しかけてすみません。じゃあ少しだけお話を…あのテーブルで構いませんか?」

ス「ええ、どうぞ。今コーヒーお持ちしますね」



和やかな雰囲気で始まったインタビューだが、俺はボケッとしっぱなしだった。

あまりに上の空なので、升増コンビがこっそり足を踏んでくる。


チャマも不審そうな目を俺に向けつつも、饒舌にフォローしてくれてる。

…煙草は、吸わずに。

なんだか急に怖くなり、俺も煙草をポケットにしまった。


肺がん。肺がん。

いや、悪い冗談にも程があるだろう。

笑ってインタビューに答える3人の表情が、声が、上滑りしていく。



記「藤原くんはどうです?曲に込めたメッセージとか、そういうものについては」

藤「…うーん、そうですねぇ。俺が曲書く時って、結局俺自身のこと、俺の周りのことしか元に出来ないんですよね。人間って基本、自分自身のことで手一杯でしょ?」



うわー、プロだねぇ俺。

ぼーっとしてても、しっかり答えられてんじゃん。


突然話を振られた俺を心配そうに見ていた3人も、安心したように頷いている。

べらべらとよく動く自分の口に内心ウンザリしつつ、模範的に取材は進行した。



藤「…ほら、カラオケでよく出てくる“挫折した人”みたいな」

記「え、何。どういう意味?」

藤「あーの、だから、俺たちの曲をカラオケで入力するとね、画面に出てくる人の8割ぐらいは挫折してるんですよ」

記「あはははは!!」



…どうしよう。最後には、笑いまでとってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る