第6話
打ち合わせが終わって、チャマがトイレに行くと言って楽屋を出た途端、唐突に秀ちゃんが口を開いた。
升「実はさっき、チャマのカバンの中身を偶然見ちまったんだけど」
増「何、そんな深刻な顔で…なんか拾ってただけじゃん」
藤「カバンの中身がどしたの?」
升「…薬の袋があったんだ。病院名が書いてあった…“聖エドワード記念病院”って」
不意に、さっきのニュースがよみがえってくる。
―――肺がん治療の特効薬として期待されている新薬が、聖エドワード記念病院で試験的に使われ始め…
―――肺がん治療の特効薬として…試験的に…
―――肺がん治療の…
意味がわからない。
いや、わかるんだけど、わかりたくない。
ほら、特効薬がある病院だからって、何も肺がんしか診療してないってことはないだろう。
風邪だよ風邪。もしくは虫歯か、ものもらい。
自分にそう言い聞かせるけど、眉間にシワが寄っていくのがわかる。
口を開いても何も言えず、空気にむせた。
お茶と一緒に、言葉まで取りこぼしそうになる。
そんな空気をものともせずに、スタッフが呼びに来た。
「失礼します、本番準備できました!移動お願いしまーす」
秀ちゃんは「はい」と返事して、何ごともなかったかのように笑う。
升「ごめん、どうしても気になってさ。でもチャマはあんなに元気なんだし、見間違いかもしれないし。誰かの預かり物かもしれないから」
言い繕うような言葉たちに、俺はどうリアクションしたらいいのかわからない。
そこへ、チャマが戻ってきた。
丸顔にきれいな髪の毛。いつもどおり、何も問題なさそうな姿。
ヒロが微笑んで「本番だってさ。行こ」と言っているのが聞こえる。
…自分の前髪が長いのが、こんなに有難いと思ったことはなかった。
今の俺には、チャマの瞳を直視できる自信がない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます