第33話

藤「べつに、ふろなんかあとでもいいよ。それよりおしえて。こたえがあるなら」



そう言ったら、彼は少し困った顔になる。



直『そんなの意識してやってることじゃないし…』

藤「むいしき?」

直『っていうか…あー、まぁそうか…』



ソファに座り直し、俺の頭をひざに乗せるチャマ。


恥ずかしかったけど、俺を見つめる瞳がものすごく真剣だったので、抵抗せずに下からその顔を見つめた。


手を伸ばしてもギリギリで届かない。

でも、俺のことだけ考えてくれてる表情。



直『藤くん、自分が大事にされてるって感じる?』


藤「うん…いや、ふだんはそんなでもないけど、いまこうやってチビになって、きがついた」


直『どうして。だって俺が子供になった時だって、おまえらすごい気つかって色々してくれたじゃん』



それと同じじゃねーの?と首をかしげるチャマ。



藤「ううん。チャマんときはそうだったかもしれないけど、おれにたいしてはいつもとかわんねーじゃん。ひつよういじょうにあまやかされるとか、ぎゃくにイジられるとか、そういうのもない。ほんとにいっしょなきがする」



それって、おまえらが普段から俺のことを大事にしてくれてたっていう、何よりの証拠じゃないのか。



直『うーん…そっか…。そんなこと、むしろ俺らの方が意識したことなかったな』


藤「だからぁ、それはどうして?おれが、きょくつくってるひとだから?」


直『曲か。まぁ一言でまとめるとそういうことだね。でもそれは、藤くんを利用してるってことじゃないよ。分かってると思うけど』



…考え考え、ゆっくりと。

ずいぶん言葉を選んで話してくれてるみたいだ。



直『たぶんヒロと秀ちゃんと俺はね、藤くんを大事にすることで、自分たちも大事にしてきたと思うんだ』


藤「おれを…?」


直『そう。例えばさ、おまえが書く詞に共感して…つまり、“そうそう、こういうこと言いたかった、俺もこう思ってた、言ってくれてありがとう”って感じる気持ちね。それを形にしてくれる藤くんが、大好きで大事で仕方ないわけよ。もう十何年も前から』

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