第32話
鍋は美味しかった。
もっとも、子供ならではの猫舌が際立ってしまい、俺は3人が食べ始めてからもしばらくぼんやりしてたんだけど。
増「大丈夫?ふーふーしてあげよっか?』
藤「いい」
直『遠慮しないの。ほら、あーん』
先週とは逆に、子供姿の俺の隣に座るチャマ。
食べやすいよう小さめに作られた肉団子から、チャマの優しさが伝わってくる。
子供の立場になったからこそ大人の気持ちがよく分かるような気がして、俺は下を向いてモグモグ口を動かした。
升「…藤原?あんまり旨いと思えないなら、ご飯とふりかけでも用意するか?」
藤「いーってば」
…今さらだけど疑問に思う。
どうしてこいつらは、こんなに俺のことを気遣ってくれるんだろう?
今は非常事態だし、仲間なんだから当然だとも思うが、考えてみればこの3人は昔から俺に対してこんな感じだった気がしてきた。
夕食後、ヒロと秀ちゃんが帰った後。
キッチンで後片付けをしているチャマに「てつだうことある?」と聞いたら、『きみは歯を磨いてなさい』と洗面所に連れて行かれてしまった。
何だか自分が全く役に立たないヤツに思えてきて、「なんかてつだう」と再度攻勢をかける。
直『…じゃあ、洗い物一緒にする?』
藤「おぅ」
台所仕事にゴジラの着ぐるみは邪魔なので、少し薄手の子供服に着替えて。
直『洗うのは俺がするから。とりあえずテーブルの上のもの、全部下げてきちゃって』
その言葉に従って、俺はリビングとキッチンの間を何度も往復した。
手が小さいので、運ぶのはほんの少しずつ。
うっかりすると自分が転びそうになったりもするので、かなり気を張らないといけない。
皿とか箸とか器とか醤油さしとか、そういうものを運んでいくたびに、チャマは『ありがとう』と笑ってくれた。
藤「ちゃまぁ」
ひととおりの片づけが終わった後、彼の服のすそをつんつん引っぱってみる。
直『んー?あぁ、お風呂?』
黙ってうなずくと、俺は聞いた。
藤「なぁ、どうしておまえら、おれのことそんなにだいじにしてくれんの?」
直『…大事に…?』
急にどうした、と言いたげな表情で、チャマは『とりあえず風呂入れようか』と立ち上がった。
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