第29話

そして3日後。



直『は~い基央く~ん、爪切りの時間ですよ~』

藤「……………」


直『いっや~~、手ぇぷよっぷよ!柔らかくてあったかくて超キモチイイ~ん』

藤「なんでもいいから、はやくきれよ」



自宅での生活は、怖れていたほどには飽きていない。

身長と視界が違いすぎるので、何もかもが新鮮なのだ。


でも、だからと言って困ってるわけでもない。

チャマの時にヒロが用意してくれた踏み台もあるし。

着替えや雑貨もほぼ揃ってるし…


ふと、取り込まれたばかりの洗濯物の山に目をやる。



直『どうしたの?』

藤「…ううん。なんでもない」



鏡に映る自分の姿は、我ながら可愛い。

しかし心の内はというと…



直『ほらほら、そんな顔しないの!パパはそんな子に育てた覚えはありませんよ!?』

藤「だれがぱぱだー!」



ぶっちゃけ、荒れ模様です。


それもこれも、日常生活にはさほど支障がないとはいえ、4歳の身体じゃやっぱりほとんどのことが思い通りに出来ないという事実に直面してしまったから。


ギターも触れないし。

(というか無理に弾こうとして盛大に倒した、チャマにすげぇ怒られた)


歌うことなら出来るかと思いきや、大人の時とは全然キーが違うから、なかなか難しい。

かろうじてシンセで遊ぶくらいはOKだけど…


…チャマのやつ、よくこれであんな可愛らしさを保っていられたもんだなぁ…



藤「ちゃま」

直『んー?』

藤「おまえすごいよ」


直『え?そりゃそうでしょー。予想以上に大人っぽくて口が達者な4歳児の恋人を根気よく世話し続けてる俺が、すごくないわけないじゃない♪』


藤「…おとなっぽいっていうか、おとなだし…」



軽口を叩きながらも、丁寧に爪切りを操るチャマ。

触られる手が心地いい。


―――ぷちん、ぷちん。



升「でもなんでアイツあんなに不機嫌なんだ?」

増「あれじゃん、光源氏計画が未遂に終わったから」



あっちはあっちで、勝手なこと言い過ぎだし…

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