第19話

ソファの背に隠れながらこっちを窺うチャマを、無理やり抱き上げた。

そのままきつく抱きしめる。



直『…っ、やだー、いたい!』



知るか、そんなこと。

じたばた暴れる手足を無視して、言葉を探す俺。



藤「これから、たとえ何年も…もしかしたらずーっと、おまえが子供として過ごすことになったとしても」

直『……』

藤「俺は待ってるよ。おまえがまたちゃんと、ベース弾けるようになるのをさ」

直『……………』



おい聞いてるか?

いや…まぁ、聞いてくれてなくてもいいか。これは俺自身の決心だから。



藤「俺の曲にベース付けていいのは、おまえだけだ」

直『…なにそれ…ほんきでいってるの?』

藤「ん?至ってマジメですよ」

直『ばかじゃん…そしたら、もしほんとになんねんもかかったらさ。そのあいだ、ヒロとひでちゃん、どーするの…』



こんな時まで、自分以外の人間を気づかう恋人。

思わず微笑みが出る。



藤「心配すんな。Motoo Fujiwaraと一緒に演奏する人間は、あの二人しかいないだろ」

直『えぇ!?』



意外か? でもきっとチャマだって、驚きつつもいちばん現実的な考えだと思ってるに違いない。



藤「だっておまえのことちゃんと食わせて、育ててやらなきゃいけねーもん。もしかしたら曲とか量産しちまって、バンドの時より忙しくなったりしてな?」

直『なんだよー、それー…』



苦笑いだけど、チャマの顔にも笑みが戻ってきた。

さりげなくその唇を奪う俺。



藤「な?だから大丈夫だよ。もしそんな事態になったとしても、おまえは俺が絶対に守るから」

直『…かっこいー』






最悪の事態を想定して話しているにも関わらず、その未来予想図は幸せにあふれていた。


部屋の灯りに浮かび上がるプリンだけが、抱き合う俺たちを静かに見つめていた。

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