留守番

第14話

その日はなるべく早く帰ろうと思っていたのだが、レコーディングに少々手間取り、深夜の帰宅になってしまった。


夕方チャマに「遅くなりそうだ」と電話したら、『じゃあおれさきにねてるから。かえりにぷりんかってきて~』と言われたっけ。


しかし既にコンビニくらいしか開いてない時間。

うーん…仕方ない、プリンは明日まで待ってもらうか。


ちなみに、俺の家へ向かうタクシーには、ヒロと秀ちゃんも当然のような顔で乗り込んでいる。

したり顔で「チャマの危機はバンドの危機」と言うヒロのひざには、明日の朝食用らしきパン屋の袋。


…危機がそこまで危機らしく見えないのは、おまえらのおかげだけどな。







増「ただいまー…」

升「しっ、チャマが起きるだろ」

藤「いーからほら、もうさっさと寝ようぜ。あ、風呂使う時はなるべく静かにな」



と、暗闇の中でひそひそと会話する俺たちの背後に、突然子ヤギが1匹現れた。



直『おかえりぃ』

藤「ぅわっ…何、おまえ起きてたの?」

直『それがさー、なんかひるねしすぎたみたいで。ベッドのなかでずっとゲームやってたんだ』



暗闇の中、DSの画面が誘蛾灯のように浮かび上がる。

ボタンを押して、ゲームを再開するチャマ。


―――無防備なその笑顔に惹かれる心理は、オオカミも人間も同じかもしれない。



直『ねぇねぇ、ぷりんは?』

藤「あーごめん、今日遅くなりすぎて買って来れなかったんだ。明日は買ってくるからさ。な?」

直『わかった』



聞き分けよく納得してくれたチャマにホッとした。



直『しごとは?どうだった?』

藤「うん。まぁ当面はおまえが休んでても大丈夫かな。あそうだ、こないだ俺がスタジオで作った曲あんじゃん?あれ、仮録音だけどベース入れといたから」

直『…へぇ~』

升「久々におまえがベース弾くの見たけど、わりとサマになってたな」

増「たしかに」



そう言って笑い合う俺たちの隣で、チャマはDSから目を上げず、『そっか』と呟いただけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る