第12話

そんな束の間の休息を経て家に帰った後、チャマ本人がマネージャーに電話をかけた。

高熱が出ると本当に子供みたいな声になるこいつの癖を逆手にとって、『かぜなんだよ~』とか言わせてみたわけ。


2本目の電話、プロデューサーにも同じ手を使った。

…結果は大成功。誰も疑わない。



直『うたがわないどころか、すっげぇしんぱいされたよ。たかちゅーってばカンタンにひとのことしんじすぎじゃない?』

藤「……」



おまえの携帯番号が表示されて、おまえ自身が喋ってるわけだから、別に不思議ではないと思うけどな。



藤「とにかく、今日明日くらいはこれで大丈夫だろ。家の中でおとなしくしとけよ?」

直『うーん…わかった、けど…』

藤「ん?」

直『れこーでぃんぐ、ベースだけとばすことになっちゃうじゃん。ごめんね?』



何だ、そんなことか。



藤「大丈夫だよ、今そんなスケジュール押してるわけでもないし。おまえはそんな心配しなくていいから、早いとこ元に戻る方法、一緒に考えような」

直『…ん』



こくんと頷くチャマ。

少しでも安心させたくてその頭を撫でてやっても、幼い表情は沈んだままだ。


…参ったなぁ。まぁ、こんな状態に陥ってしまって、不安になるのは当たり前なんだけど。

特にチャマは、普段のおちゃらけキャラとは裏腹に、もろくて繊細で、人一倍周りに気を遣いすぎるヤツだから…


そっと、ひたいにキスをした。

唇を掠めただけの、ごくわずかな触れ合い。

でも、チャマには俺の気持ちが伝わったみたいだ。



―――大丈夫、俺が一緒だから。そんなに思い詰めるな。



えへっと照れくさそうに笑うチャマ。

と、玄関先が急に賑やかになった。



増「ただーいまー♪」



ヒロと秀ちゃんが買い物を終えて帰ってきたみたいだ。


…なんか知らないけど、山ほど買い込んでるぞ。服だけじゃなくて雑貨もあるみたいだし…

おいヒロ、おまえ楽しそうだなぁ…


戦隊ヒーローものの柄がついた白い下着を見て、チャマも思わず吹き出している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る