第8話
その日の深夜。
升「いた?」
藤「…いないね」
うら寂れた路上で人捜しをする男が2匹。
何を隠そう俺と秀ちゃんだ。
冷静に見れば、俺たちもけっこう通報スレスレだと思うけど…
(何しろ探してる相手はおっさん占い師だからな)
升「そっちの道は見たっけ」
藤「うん…やっぱ手がかり無しか」
升「完全に無しでもないけど…」
そう言って秀ちゃんが見せてきたのは、不気味な光を放つシェードランプだった。
藤「えっ?何これ、どこにあったの?」
升「あっちのゴミ捨て場に置いてあったんだけど、妙に気になって。こんなの普通の人は持ってないだろ?それこそ占い師ぐらいしか」
そのとおり。
あの怪しさMAXの路上占いセットの中でも、一際その雰囲気作りに貢献していたのが、このランプだったから。
藤「大当たりだわ…。持ってくか」
升「うん」
そうして、俺たちは言葉少なに家路についた。
―――帰りのタクシーの中、ぼんやり光り続けるランプを見ながら(電池式なんだろうか)、俺は秀ちゃんに小声で話しかけた。
藤「今日さぁ」
升「ん?」
藤「夕飯の前、ヒロが帰ってきた時。おまえら2人で、寝てるチャマ抱っこしながら話してたじゃん?」
升「え…あぁごめん。なんか可愛くて、つい…」
いや謝らなくていいんだけど。
藤「あの時さ、すげー微笑ましく見えたんだよ。幸せそうっつーか…なんか、遊び疲れて寝ちゃった子供とその両親、みたいな感じで」
升「…目の錯覚だろ」
藤「………」
升「………」
藤「…ごめん」
升「…謝るなって」
同性愛最大の弱点に触れてしまったこと、それでもあの一瞬の3人は美しかったこと。
…俺が現状に対して、かなり不安定になっていること。
自分自身、そうと気づいていなかったこと。
チャマのメールですぐに駆け付けてくれた2人に、ものすごく感謝していること。
それら全ての思いを込めて、俺はもう一度だけ口を開く。
藤「今日は、ありがとう」
升「…うん」
―――家に着いたら、ヒロとチャマは無邪気な顔で眠っていた。
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