終章

第53話

平安末期から鎌倉初期にかけて―――

日本史上、あまりに有名な世相風刺の画がある。



鳥獣戯画。



それは複数の人間によってまちまちに描かれた風刺絵を、さる寺院がまとめたもの。

うさぎは笑い、蛙は踊り、猿が弓を引き、鳥が法要を営み、蛇がいたずらを施す。


むろん史実ではなく、世相風刺であった。






由『このうさぎは、琵琶を奏でているのかしら』

弘「こちらの蛙は詩歌を詠んでいるようね」



複雑そうな表情の帝を、笑い声が取り巻く。



由『この背を丸めた後ろ姿は…』

2人『「帝にそっくり!ほほほほほ!!」』

藤「……………」

升「いやはや。女人にはかないませんなぁ、帝?」



滑稽で、ところどころに肝の冷えるような表現もあるけれど。



弘「あ、この絵は動物たちの相撲風景よ」

由『相撲は…帝には無理でしょうねぇ。あ、この絵は升の君に似ているのではなくて?』

弘「どれ…そうかしら?」



うーんと首をかしげる、弘と升。



藤「…いい加減にしなさい、文姫」

升「おやおや、公然と封じ名を口走られるほどに動揺しておられるらしい(笑)」

弘「帝もねぇ、皇后さまにだけは弱くていらっしゃるから」

升「はっはっは!」






それは確かに、人が願いをこめて描いたもの。


乱れていることが当然であった世の中で、それでもささやかな幸せを願った人間たちの―――









【了】

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