第51話

―――小鳥たちが、明け方の庭に訪れる。






升「…私は、地獄行きだろうか」

増「え?」

升「人より神に近くあるべし。そう定められたあなたを、汚してしまった…。せめて地獄に落ちるのは、私1人であれば良いのだが」



あなたにはそんな業を背負わせたくない。

そう言う升に、弘は唇を尖らせる。



増「自分1人で行くおつもり?私は、また置いてけぼりなの?」

升「えっ!?あ、いや、違…」



そんな真剣な反応が返ってくるとは思っていなかったので、あたふたしてしまう。



升「でも…帝や由姫は、きっと天国行きでしょう。だから、弘もそちらへ…」

弘「いや!どうして升がいない所に行かなければいけないの?あなた、何度私を淋しがらせれば気が済むのよ!?」

升「だ、だから、淋しくはないはずと…」

弘「いくら藤や由がいても、友人は友人じゃない!そうじゃなくて、一緒にいたいのは…私にとってただ1人の…!!」



ほろり。

ひとすじの涙が頬を伝う。

それを見た升は、弘の頭を胸にかき抱いた。



升「…すまない」

弘「……っ、…本当よ…!」

升「しかし、あなたを地獄になど連れて行きたくはないのも本当だ。罪人や物の怪しかいない、亡者の国…」

増「…私の祈祷は、馬鹿になりませんわよ?」



いたずらっぽく笑ってそう言う弘に、思わず目を丸くする。



升「封邪…というやつですかな?あなたの祈祷力は、そのために培われたとでも言うのか?」

増「そうよ、きっとそう!私とあなたの2人くらい、きっと守ることが出来るわ!それに、升の武術だって生半可なものではないでしょう?堂々と閻魔大王の前まで行って、私たちが悪いことをしたわけではないということを、説明して差し上げましょうよ!」



そう言って笑う弘を見ているうちに、升の目から涙がこぼれてきた。



弘「あ…、升の君…?」

升「…失礼。それほどまでの覚悟で、私を選んでくださったのかと思ったら…」



そう言って恥じ入るように部屋を出ようとした升を、弘は微笑んで引き留める。



弘「覚悟なんて大げさなことは何もないわ。私はただ、あなたと一緒にいたいだけ。これ以上、大切な人を失いたくないだけ…」

升「…ありがとう。本当にありがとう。あなたは、私ごときにはもったいない方だ…」

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