第50話

あっという間に太陽が沈み、月と金星が顔を出す時間となった。


京の夜を照らし始める灯りのなか、消えゆく自然の光を惜しむように抱きしめあい、身を寄せる。


背に回された力強い腕には、先日の伊勢の戦いの痕跡が痛々しく残っていた。






弘「…お武家さまの身体は、やはり逞しいわね」

升「おいやか?」



目を細める升に、弘は微笑んでかぶりを振る。



弘「とんでもない。むしろそれはこちらの台詞…。くどいようですが、私は女人ではございませんよ?」



今度は升が笑う。



升「百も承知。私が最初に心奪われたのは確かに“弘姫”であったが、その後もずっと好きで居続けたのは“弘の君”だ。そのままのあなたが良いのだ」

弘「………はい」



少し臆したような表情。

そこがまた愛らしく思えるのは、ひいき目の故か。



升「…そのようなお顔をなさるな。…灯りを消すのが、惜しくなるから…」

弘「……っ」



初めての口づけは、涙の味がした。

そのまま、静かに夜具へと重なる2人。


灯りを消したのは、武骨な武士の指。

その下で呼吸を乱すのは、可憐な神職の唇。



弘「…ん、ぅ…」

升「は…っ」



わずかに響いていた衣ずれの音は、やがて肌のふれ合う音になり、2人の幸せを紡ぐ音へと変わってゆく。



弘「あ、ぁあっ…ゃ、秀…っ、はぁっ…」

升「…弘…」

弘「いやっ…ぁ…!おかしく、なってしまう…!」

升「…望むところ。私のこと以外お考えになるな」



体は苦しく、痛みを感じ、つらいはずなのに。



升「…弘。不快はないか?」



その気遣いに、涙をこぼして首を振る。



弘「痛いです。苦しいし、つらいし…違和感もあって。…でも、」

升「でも?」

弘「…やめないで…」



熱のこもった吐息に、升の野性がまた刺激される。



升「罪な御方だ…」

弘「…知らなかった…“気持ちが良い”とは、こういうことを言うのですね」

升「…っ、愛してる。もう私にはどうしようもないくらい、愛してる…弘…」

弘「あぁ…」



嬉しいのか何なのか、もはやよくわからない涙が、混じり合い溶け合ってゆく。



升「…っ、弘!!、…くっ」

弘「あぁ、やっ…秀夫さま…っ!!」

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