第48話
弘「何を言っているのよ!!」
ここまでコケにされてはもう我慢できぬとばかりに、弘は座を蹴って飛び出した。
頬は赤く、こぼれる涙を隠そうともせず。
升「…!!」
反射的に立ち上がった升が、小さくなっていく背中を見つめる。
藤「追いかけないのか?」
由『ひどい男ね』
升「…何を簡単そうに!私が、…私がどんな思いをしたか、あなた方は何も知らないでしょう!!」
由『知っているわよ!』
珍しくきつい声を出す由に、帝も升も「おやっ?」と顔を見合わせた。
由『どれくらい弘が悩んだか、苦しんだか、ひとりきりで泣いたか!たとえ升の君が知らなくても、私は知っています!』
だからこそ今回の帝の乱暴な提案にも賛成したのだ、と由姫は言った。
藤「乱暴かどうかは置いておくとしても、彼女の意見が無視できぬ内容であることは確かだろう?」
…そう言われても。升は思わず柱に寄りかかって、腰を落としてしまった。
升「というか、張本人の前でそんな身も蓋もない企みを暴露して、どうするのですか…」
藤「…側室など、名目に過ぎぬ。4人でまた一緒に過ごしたいと願う私の我が儘だ」
升「では…では、私は罪を犯しても良いと?犯すべきなのですか?」
藤「何の罪だ?弘は神祇官ではないから、そこは心配せずとも良いぞ」
由『帝の側室を恋うことに対しても、当の帝と正室の許可があるのだから大丈夫よ』
升「~~~、…そうですか…」
怒りも羞恥も通り越して脱力しきった表情で、それでも升は立ち上がる。
…祈祷所の方へ消えていく足音を聞きながら、御簾の内ではこんな会話が繰り広げられていた。
藤「しかし升は、本気でこのまま弘をあきらめるつもりだったのだろうか?」
由『あきらめるというか…弘が神祇官となったら、自分は近衛の大将として、それを一生守り続けるつもりだったのではないかしら?』
いくつ目になるかわからない菓子に手を伸ばしながら、由がそう答える。
すると帝は驚いた表情になった。
藤「…何だ、その考え方は。高野山の僧たちも裸足で逃げ出しそうなほどの禁欲生活ではないか」
由『禁欲とか言わない』
藤「しかも一生…。それが本当なら、升自身が神祇官になれそうな勢いだと思うのだが」
由『…それもそうね…』
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