第47話

その日の夕刻。

内々に第一報を聞かされた弘は、菓子をのどに詰まらせて死にかけたと言う。

…その菓子を持って祈祷所まで出向いた使者こそ、他ならぬ升の君であったのだが。


激昂し、そのままの勢いで御前へ向かう弘。

終始無言のまま付き従う升。


御簾の内には、同じ菓子を手のひらに載せて2人を待つ帝の姿があった。






藤「おぉ、弘に升か。どうした?」

升「…白々しい…」

弘「帝、お話は聞きました。今さら何を仰るのです!言うまでもなく、私には子は産めませぬ…というか、帝とそのような関係になること自体、色々な意味で大変な無理がありましょう!?それは、あなた御自身がよくご存じのはずではございませんか!」

藤「当たり前だ。しかしこうすれば弘は、ずっと宮中に…私と由の近くにいてくれることになるだろう?友人として」

由『私も、気のおけない話し相手が近くにほしゅうござりますなぁ』



憎々しいほどのどかな声が聞こえる。

というか、いくら皇后とはいえ、帝と同じ御簾の内にいたのか…(しかも菓子食ってるし…)



弘「…あのぅ、皇后さま。ふつう正室と側室は仲が良くないものでは…」

由『どんなことにも例外はあるでしょう』



にこやかに側室(候補)の反論をつぶす正室。

隣にはにやりと笑う最高権力者の姿。

…正直、敵に回したくない。



藤「神祇官の職を継がなければ、幕府側が弘を狙う理由はなくなる。しかも帝の側室となれば、まず命は保証されたも同然。…尚かつ、ずっと御所内にいるのだから、いつでも祈祷はしてもらえる。どうだ?完璧ではないか」



すべて夫婦間で打合せ済みなのだろう、上機嫌で笑みを振りまく2人。

それとは対照的に、弘と升は眉間のシワを深くする一方だ。



升「それだけですか?」

由『………』

弘「…藤、由。本音は?」



場合によっては呪い殺してくれると言わんばかりの祈祷の達人に、由は頬を若干引きつらせているが。



藤「さぁ、これでお膳立ては整ったぞ。あとは升が弘を連れて何処へなりとも駆け落ちしてくれれば、完璧だ!」



…帝はあくまで楽しそうだった。

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