第46話

藤「例えば、私の父の弟…つまり叔父には、息子が3人もいる。それぞれ官位を持ち、皇族の名に恥じぬ暮らしをしているはず」

升「先ごろ亡くなられた3代前の帝には、まだ幼い孫宮さまがいらっしゃいますね。いずれ成人された暁には、将軍家の姫と縁組される予定とか」



楽しそうに皇族を指折り数える2人に、由は『…意外といるのね』としか言えない。



升「ええ。正確に書面を辿れば、もっと出てくるでしょう」

藤「出家なさった方々まで含めると、収拾がつかなくなるやもしれんな」

由『はぁ…』



だから、と升は微笑む。



升「だから、なるべく御正室さまに男子が出来ればよろしいのです。そうすれば、末端の候補者まで皇位継承争いに巻き込むことはないでしょう?」

藤「それに皇族としての血筋は、本流から離れれば離れるほど、幕府側の付け入る隙も出来やすい」



うかつな縁組で御所を乗っ取られるような事態を避けるためにも、大貴族の姫は昔から皇族へ嫁いできたのだ。



由『そうか…なるほどね。私の立場には、そんな大切なお役目があったのね…』

藤「なに、そんなに難しく考える必要はない。そなたは私のことだけ見て、私のことだけ考えていればよいのだ。そうすれば自然と子など出来るはず」



そう言って、真顔で由の髪に手をのばす。



由『ちょ、ちょっと…;』

升「あの、帝、まだ日も高いですから…というか私の目の前でそのような真似は…」

藤「まぁそうだな。そういうわけで」



にやりと笑う帝を見て、由と升は同時に嫌な予感を持った。

彼がこんな表情をするのは、決まって何か企んでいる時なのだ。




藤「升。私の側室について、明日にもこう発表せよ」

升「はい」

藤「増川家の跡取りである弘姫は、あの猛火をかいくぐって生き延びていた。帝は、彼女を側室とする…とな」

升「なっ!?」

由『そっ…それは』




―――由は唖然として二の句が継げず、升は顔に笑みを張り付かせたまま動かなくなった。

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