第45話
翌日。
新帝の即位、そして由姫の立后は滞りなく行われた。
…しかし、その場でもう一つ行われるはずだった儀式は、帝の意向で中止となった。
その儀式とは“新神祇官の披露”。
伊勢から帰って以来、弘は再びごく限られた人々としか接触しない生活に戻っていた。
帝や皇后とは、変わらぬ仲である。
しかし升家の息子は、訪ねて来るどころか、文の一本も寄越すことはない。
…伊勢でも必要最低限のやりとり以外は無かったことを考えれば、その徹底ぶりは当然とも言えるのだが。
一度は想いが通じ合ったかと思えたのに、言葉も心も途絶えて久しい2人―――
御所内の祈祷所で一日の大半を過ごす弘の姿は、もはや神職としての役割以上に、自らの生きる理由をそこに求めているかのようであった。
心も性もすべてを神に預け、いつか自分自身も俗念を越えられたら…。
そう願って、誰にも見せられない涙を流す。
それでも、ふとした拍子に弱々しく微笑む友人がどうしても気になって仕方ない者があった。
他でもない、皇后として華やかな生活を送るようになった由である。
―――表面上は、平穏が戻ったかのような京の都。
帝に側室を娶らせようという話が廷臣たちから持ち上がったのは、そんなある日のことだった。
帝は升とともに皇后の居室へ赴くと、その話を包み隠さず伝えたのである。
藤「…そういうわけだ。まぁ、臣たちの心配も分からんでもない。亡き父は私の母を溺愛するあまり側室をもたず、かろうじて産まれた男子は私1人だったのだからな」
由『…そ、れは…私も、あなたのお母さまと同じ運命を辿るかもしれないと?』
目を伏せる由姫。
正室には正室なりに、“男子を産む”という責務があるのだ。
升「しかし、ご婚礼からまだ日は浅いでしょう。子などいなくて当然ではありませんか」
藤「それはその通り。それに、もし我々に子が1人も出来ずとも、別に世継ぎに困るわけでもないしな」
由『え?そうなのですか?』
藤「そうなのですよ」
拍子抜けしたかのような妻の顔を見て、帝は思わず苦笑する。
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