第44話

―――4人の帰京を待っていたかのように、世代交代の時期は訪れた。

帝が危篤となったのは、直井家の合同葬の後のこと。



御所の一室に籠もったままの若宮と、その側を離れない由姫。

昼夜を問わず祈りを捧げ続ける弘。…そして。



升「どうか、お心確かに。若宮さまも戻られ、幕府との折衝もこれから…。世は大きく動こうとしております」



未来の朝廷の守護者として、升は帝と最後の対面を果たしていた。



帝「直井の姫は…見つかったのだな?あれの側に、しかと居るのだな?」

升「はい」

帝「増川の跡取りは…」

升「ご心配には及びませぬ。今この時も、祈祷を続けております」



呼吸は乱れ、首を振るのも大儀そうな帝。



帝「升家の息子よ、次の帝をよろしく頼む。…しかし、あまり無理はせぬようにな」

升「…はぁ…そうは言われましても、無理をしているという自覚もないままに動いてしまうのが若者にございますれば」



答えに窮し、苦し紛れにそう返すと、帝は嬉しそうに微笑を浮かべた。

それを見た升も笑う。今の自分に出来る精一杯のことをやれば良いのだ、そう理解する。



帝「花の季節は短いぞ。悔いるような人生だけは送るな。…そして、后や友を愛するのと同じだけ、臣や民へ心を配るように。皇太子に、そう伝えてくれ」

升「はい」







―――帝の最期の言葉は、「幸せに」。

その瞬間、若宮は皇太子の地位を外れた。


臨終に立ち合った升から聞かされた第一声は、「ご即位おめでとうございます、新帝陛下」であった。



藤「私は、幼い頃から皇太子として我が儘放題に育ってきた…父にとっては、唯一の息子にして最大の頭痛の種だったかもしれないな」

由『…お戯れを』

藤「でも、人生で最も大きな我が儘…あなたをこの手に収めるため自ら動いたことは、何も悔いてはいない」



若宮が“若宮”と呼ばれる、最後の夜。

翌日は新帝即位の式典であり、同時に由姫の立后も正式に発表される予定である。



由『瀬をはやみ…』

藤「その歌は?」

由『いえ、ただ下の句が思い出せなくて…。いつかも弘を困らせたのですわ』

藤「何のことやらわからぬが」



ふっと灯りを仰ぎ消す。



藤「2人きりの夜に、夫の前で別の男の名を出すとはな。良い度胸ではないか」

由『まぁ』

藤「…覚悟しろ」

由『お戯れを…』



重なるのはその身体か、笑みか。

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