七:契りきな…

第29話

由『弘、帝にはくれぐれも丁寧なお見舞いを申し上げてね?お願いよ?』

弘「わかっている。そんなに心配せずとも大丈夫だよ、若宮もおられるのだから」

升「そう。言葉遣いはその調子です」



今日は、男装の弘が初めて御所に赴く日。

若宮の父である帝が体調を崩されたとのことで、祈祷が必要になったのだ。


素性を隠して暮らす身とはいえ、やはり弘の祈祷力は京でも随一だから。

身辺警護のため升が付きそうことを条件に、若宮も弘の来訪に許可を出したのである。



升「では、弘の君」

弘「うむ…行ってくる」

由『はい。お気を付けていっていらっしゃいませ。お勤め、つつがなきよう』





その頃、4人のささやかな幸せをよそに、幕府の争いは激化の一途をたどっていた。

増川邸の焼き討ち以降も、何かと理由を付けては貴族への攻撃が繰り返される。


文は武に勝つることなく、あっという間に没落していく高貴の人々。

帝の権威はかろうじて保たれていたものの、実質的には臣人たちを守る力はなく、帝や若宮は苦しんでいた。





―――御所にて。

祈祷がひととおり終わり、帝への挨拶も済んだ後、若宮は弘と升を自室に招いた。



藤「ありがとう弘。父上の容態も、いくらか快方に向かっているようだ」

弘「いいえ。すでに大陸由来の良い薬がある様子でしたし、私は主に心の平癒を祈祷させていただきました」

藤「ふーむ…」

升「どうなさいました、若宮」

藤「いや。弘のその服装も、だいぶ板についてきたものだと思ってな…」

弘「そうですか?」



自分ではまだ完全にしっくり来てはいないのですが、と笑う弘に向かって、升は言う。



升「しかし、由姫さまが毎日楽しげにあなたの装束をお選びになっていらっしゃることを考えれば、着こなし甲斐もあるというものでしょう」

藤「なんと…!薄々そうかと思ってはいたが、やはり私の好敵手は弘なのか?」

弘「ええっ?つまり今度は、私と若宮で由姫の取り合い…ということですか?」



ここのところ、藤の若宮は三日とあけずに太政大臣邸へかよってきている。

そのたびに由姫の部屋から追い出される弘と升にしてみれば、まさしく「どうしてそんなバカな発想になるのか」と言うところだろう。

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