第28話
弘「私?」
升「若宮は、一貫して由姫さましか見ておられない。その事実に傷つくあなたを見ているのも、またつらいですから」
淡々と核心を突く升に、弘はほぅっと深く息を吐き出す。
弘「…升。あなたは、男性が好きなの?」
升「はっ?」
弘「だって、私の秘密を知って、かえって喜んでいると言っていたじゃない…」
弘が何の話をしているのか理解するのに、数秒かかった。
そしてようやく、燃える増川邸でのことを思い出す。
―――偶然とはいえ、今あなたの秘密を知った。そのことを喜んでいる自分がいます。
そう、升は確かにそう言った。が。
升「いやお待ちを。あれは、恋い慕う相手の“秘密”を共有できたから喜んだのです」
そんな率直すぎる言葉に、思わず頬を赤らめる弘。
升は声を立てて笑った。
升「私はもともと女性が好きです。あの時ああ言ったのも、あなたを女性だと思っていたからです」
弘「…では…」
升「しかし、私は幼い頃からあなたを見てきた。もはや私にとって、あなたは好きであって当然の御方…性別など関係ないと言ったら、お怒りになるか?」
弘「…そんなことは、…でも」
迷うような声と表情。
おそらく、若宮への気持ちも完全には捨て切れていないのであろう。
男装のまま女性の如くうろたえる美人というのも、不思議な魅力があるものだ…
升「…弘さま。性急なことを申し上げてしまい、まことに申し訳ありません」
弘「え?いえ…」
升「若宮さまが魅力的なのは当然のこと。私など眼中になくても仕方がないと思っております」
弘「そっ、そんなことは考えていないわ!お願い、そんな風に言わないで」
升「では…少しだけ、将来に期待を持っていてもよろしいか?」
弘「………」
弱々しく視線を返す弘は、それでも微笑んでいた。
心底嬉しそうにうなずきながら、冷え切ったお膳にあらためて手をのばす升。
升「さぁ、食事を済ませてしまいましょう」
弘「…はい」
―――その夜、弘の部屋の障子には、つかず離れずの距離で長い時を過ごす2人の影がうつり続けていた。
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