第27話

升の君からそう聞かされて、どれだけ嬉しかったことか。

そう言うと、再び頬を染めて目を閉じる由姫。


うつむき加減の横顔に、そっと若宮の手が添えられる。

夜の闇、遠くに聞こえる虫の声。

そして火影の2人。



藤「由。目をあけて」



おそるおそる目を開いた途端、思いがけず強い力で抱きしめられた。



藤「ずっとこうしたかった。増川邸で初めて姿を見た時、怒るあなたを見て、私は不謹慎にも“美しい”と感じたのだ…」



もはや、由姫の胸の高鳴りは止めようにも止まらなくなっていた。

そして気づく。若宮の鼓動も、自分と同じくらいの速さになっていることを。


ふわりと微笑んだ自分に、若宮がまた心を奪われているのを、気づいているのかいないのか―――

甘くあやしい、由姫の魅力。



由『若宮さまは、日々お忙しいのでしょう?』

藤「…忙しいという字は、“心を亡くす”と書くはず。私はそんなふうになりたくはない」



腕の中で、わずかに首をかしげる由姫。



藤「たとえ皇太子として、次の帝としての責務のため、心を殺すことがあったとしても」



強い光を瞳にたたえ、姫を見つめる。



藤「あなたの前でだけは、心を亡くしたくない。このような気持ちを持ち続けたい」



目を細める。



由『このような、とは…?』



腕に、さらに力が込められた。



藤「…このような、ことだ…」

由『あ…』





障子にうつっていた影が、静かに沈んでゆく。

―――そっと、灯りが落とされた。










その頃、弘の居室では。

何ごとも無かったかのように食事を続ける2人の姿があった。



弘「由たち、うまくいくかしら…」

升「大丈夫でしょう。…それよりも私は、あなたの方が心配ですよ」

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