第26話

藤「ふむ。たしか高橋家は、直井の御父上とも親しくしていたはずではなかったか?」

由『えっ』



真っ赤な顔で、思わず箸を取り落とす由姫。

目を細めてその姿を見つめる若宮。

升と弘はどちらからともなく目配せをして、そっと立ち上がった。



由『ひ、弘。どこへ行くの?』

弘「…升の君、お膳を女房に運ばせましょう。食事の続きは私の部屋で」

升「はい」



さっさと席を立つ2人を、半泣き状態の由が見送る。

若宮は升に向かって片目を閉じると、くすくすと忍び笑いをもらした。

急に静かになった部屋で、この家の一人娘はかつてないほどの緊張を味わう羽目になった。



由『ぁ、あの…、若宮さま』

藤「ん?」

由『…た、高橋家の息子さんは、どちらに?車で待っているのですか?』

藤「そうだが…何だ、私より供の者が気になるのか?」



せっかく御所から足をのばしてきたのに。

少し不満そうな表情の若宮に、由は困り果てた。


どうしよう、どうしよう。

若宮と話をするのは、あの増川邸での喧嘩別れ以来のことなのだ。


というか、今まで人を恋うという経験をしたことが無かったので、好きな相手といざ2人きりになっても何をどうしたらいいものやらサッパリわからない。



藤「食事は、もういいの?」

由『あ…、はい。私はもう…』



お膳の上には、まだ半分以上の料理が残っている。

いつもなら元気に全部食べ尽くすはずだが、今日ばかりは喉を通らない。

無理だ。こんな胸の高鳴りは初めてなのだから。



藤「弘とは、仲直り出来たのだね」

由『は…はい』

藤「良かった。あの夜以来、それを一番心配していたのだよ。そなたたち2人が気まずくなってしまったら、それは全て私の責任だ」

由『そんな!そんなことはありませんわ!』



思わず若宮の目をまっすぐ見つめる。



由『神祇官邸が焼失した後、弘をこの家へ寄越すよう取り計らってくださったのは、若宮さまでしょう?』

藤「ああ」

由『それに…弘のことはもちろんですが、あんな失礼をした私のことまで、変わらず…その…想ってくださっていると…』

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