六:久方の…

第25話

それからの由姫は、また以前のように明るくほがらかな心を取り戻した。

ほぼ毎日、弘と升の“勉強”に付ききりで過ごしているのだから、自然とそうなる。


直井邸に籠もりきりではあるものの、気の置けない友人同士で過ごす時間は、何にも代え難い宝だった。



弘「書物はもう大丈夫よ。もともと漢詩や歴史書には触れていたし、政治や法律関係の書にもひととおり目を通し終わったわ」

升「それはいいのですが、やはり問題は立ち居振る舞いですね。どうしても女性らしさが…」

由『見ていると、作法以前に歩き方がまず違うもの。ねぇ弘、升の君みたいにもっと堂々と胸を張って…、大げさなくらいにしても良いのでは?』



言われた升と弘は「うーん」と考え込む。

歩幅や足の出し方、肩の振れ方など、気づかぬうちに男女差がついているものらしい。



弘「簡単に言うけれど、難しいものよ?このうえ蹴鞠、乗馬、武術まであると考えたら、頭が痛くなるわ」

升「あぁ、武術もありましたね。せっかくですから、来年の流鏑馬には直井家の代表として出てみましょうか」

弘「ええっ?;」

由『まぁ、それはいい考え!ねぇ升、そのついでに、私も少しだけ弓を…』

升「…はいはい(苦笑)」

弘「ちょっと、あなたたち…」



その日も3人は、夕餉をとりながらわいわいとお喋りに興じていた。

と、そこに響いた声は。



藤「何だ、3人とも私がいない方が楽しそうではないか」

弘「えっ!?」

升「…これはこれは」

由『ふ、藤の若宮さま…!!』



またあのお忍びの車で来たのだろうか。

御所からのお出ましにしては軽装で、そのくせ華やかさを感じさせる出で立ちだった。



升「若宮、供の者はきちんと連れておいででしょうな?一人歩きは危険ですぞ」

藤「心配するな。実は先日、侍従の高橋の息子が、私の側近になったのでな」

升「高橋…?」

弘「あら、その方なら知っているわ。高橋家は、増…いえ、私の父とも懇意にしていたもの」

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