第24話
升「あのぅ、由姫さまは、弘姫…いや、弘さまが性別を偽っているという事実を、ご存じなかったのですか?」
だとしたら意外なのですが。
そう言いたげな升に、弘と由は複雑そうな表情で答える。
弘「由は昔から知っていたでしょうが」
由『し、知ってはいたけれど…どうして今さら?だって神祇官の跡継ぎは、魔除けのために一生…』
混乱したままの由姫の言葉は、苦笑した2人にゆっくりと遮られる。
弘「祈祷力のある人間は、今や幕府の一部から狙われる立場。増川一族は、あの夜全員が天に昇った…ということになったのよ」
升「代々神祇官職を受け継いできた家が滅びたということは、御所をはじめとする高貴な場所での祈祷を行う人間がいなくなったということですから」
ひとまずはそれで、幕府側のこれ以上の攻撃を抑えられるということだ。
もちろん、増川家以外にも祈祷が出来る人間は存在するのだから、あくまで対症療法なのだが。
弘「そういうわけで、私は今後男性として生きていきます。直井家の遠縁、“弘の君”として」
升「これは若宮や帝、そして直井の御父上もお勧めになられたことでございます」
弘を守るために。
増川家の唯一の生き残りを…未来の神祇官を、生かすために。
由『そういえば父上はたしか、昨日いらしたお客様にこう仰っていたわね』
“直井家の遠縁の者を引き取るのです”と。
升「そう。間違っても、増川の名前を出してはならない。弘さまの命のためです」
弘「言葉遣いや習慣は、これから升の君に特訓してもらいますから」
由『わかったわ、弘…。頑張ってくださいね。でも一つだけお願いがあるの』
弘「なぁに?」
首をかしげる様子はまだまだ愛らしい“弘姫”のままで、由は思わず微笑む。
由『…私と一緒にいる時は、頑張らないで。楽にして、今までどおりの関係でいてちょうだい。たとえあなたが男装でも、女装でもね』
升「女装…」
弘「男装…」
その何とも言えない響きが可笑しくて、誰からともなく笑みがこぼれる。
3人の若者は、女房たちが不審がって様子を見に来るまで、楽しそうに笑い続けた。
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