第23話
そしていよいよ、弘が直井家に移る日。
由姫は朝からそわそわと落ち着かなかった。
あの仲違いの夜以来、3人とは会っていない。
どうしたらいいのか分からず、誰とも連絡を取らず…そうこうしているうちに、増川邸が焼き討ちにあって。
弘と升の安否については、かろうじて若宮から遣わされた使者によって知ることが出来たけれど…。
本当に本当に、心を痛め続けてきたのだ。
「由姫さま、御所からの車がご到着になりました。まずは升家の若君がご挨拶をなさりたいとのことでございます」
女房の取次すらもどかしく、応接間へ急ぐ。
そこにあったのは、記憶のままの笑顔だった。
由『升の君…!あぁ、無事で本当に良かった』
升「ありがとう存じます」
ほんの半月ほど顔を合わせていなかっただけなのに、ひどく懐かしく感じられる。
しばらくの間、2人は静かに手を取り合っていた。
升「では、姫さま…少々お待ちを。あなたの御友人をお連れいたしますので」
涙ぐみながらうなずく由姫を残して、升は隣の部屋へおもむいた。
―――そして数秒後。
その部屋に、いや、太政大臣の屋敷じゅうに、由姫の驚愕の叫びが響き渡った。
由『ええええっっ!?!?』
弘「よ、由;」
升「由姫、声が大きい。落ち着かれぃ」
由『お…落ち着けと言われても…だいたい何よ、その格好は!あなた一体誰!?』
弘「あなたの十年来の友、弘ですけれど?」
そこにいたのは、男装の麗人。
…ではない。あの藤の若宮をもしのげそうなほどにまばゆい、男前美人だった。
いや、元々は男性なのだから、本来の格好に戻っただけとも言えるのだが。
由『どういうことなの!?』
弘「どうもこうもないわ、ご覧のとおりよ!もう私は“増川家の姫”ではなくなったの!」
由姫があまりに派手に騒ぐので、弘も引っ込みがつかなくなったらしい。
いかにも着慣れていない様子の男性用装束を気にしながら、顔を赤くしている。
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