第22話

藤「気の病、か…。心当たりは…」

升「あるでしょう」

藤「………まぁ」



あるも何も、あり過ぎる。

世間にはびこる心ない噂。由姫との仲違い。焼失した屋敷と親兄弟。そして―――



升「若宮はいつからお気づきだったのです?弘姫が、あなたを憎からず想ってきたということを」

藤「いつからと言われても…」

升「しかもあの美しさ、幼馴染みとしての心安さ。そのうえで拒まれた理由は、やはりあの方が男性だからで…?」

藤「待て、それをいつ知った?増川の人間以外は、帝位を継ぐ者にしか知らされぬ秘密だぞ」

升「燃えるお屋敷から、姫をお連れした時に。…非常時の偶発事故とでもお考えください」



そうか、と言ったきり黙る若宮。

升もそれ以上は何も言わない。

長い沈黙を破ったのは、若宮のぼそりとした一言だった。



藤「升。弘姫の護衛として、直井家へ一緒に行ってはくれまいか」

升「私が…?しかしそれでは、」

藤「私のことなら心配はいらないよ。それより今は、弘と…由姫のことを頼む。あの2人を守ってやってくれ」



―――私のかわりに。

その言葉に、升は下を向いた。

焼け落ちる神祇官邸で弘姫に向けて放った言葉を、今さらのように悔いる。



藤「升は、弘が男性だと知ってもなお、“姫”として恋うことが出来るか?」

升「えっ?」

藤「私が弘を愛せないのは、男性であるという理由だけではない。…あれが、私にとってはかけがえのない友人だからだ」

升「友人…でございますか。由姫さまに対するお気持ちとは、違うと…?」

藤「違うよ。しかし、弘が私を好いてくれて嫌だというわけでもない。受けとめられなくて困ったとは思うがな」



にやりと笑う若宮、赤面する升。



升「若宮…それこそ、いつからお気づきだったのでございますか。私が、その…弘姫を…お慕い申し上げているということを」

藤「何を今さら!そなたは幼い頃から何かと弘姫を気にかけていたではないか」



バレていないと思ったのか?

そう笑われて、升は頬を一段と紅潮させるばかりであった。

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