第14話

升「もしや弘姫は…心の奥底では、若宮のことを?」



それが幼馴染みとしての気持ちの範疇なのか、それ以上のものなのかは分からない。

けれど、もしそうであれば。



升「私など、全く眼中にないだろうな」



まだ物心もつかぬほど幼い頃から、升は弘姫を特別な想いで見てきた。

しかし、神祇官の跡継ぎになることが決まってからは、それは永遠に報われないものとなってしまって。


今また、心だけのつながりを求めたとしても、それすら若宮には敵わない…

ぽつんと人知れずつぶやく。



升「恋など、しなければ良かった…」








車から邸内へ戻る最中、升はふと振り返った。

こんな夜更けに、増川家を訪れる人があるようだ。

しかもおしのびではなく、堂々と正面から。

あの車と、お付きの人々は…



升「よっ、由姫さま!?」



升が驚くのも無理はない。

それは確かに太政大臣家の一人娘であり、藤の若宮の求婚相手である、由姫だった。



由『升の君?』

升「由姫さま…このような時間に、どうされたのですか。弘姫さまのところですか?」

由『何でもいいでしょう。それより、あなたこそ何故ここに?…誰かさんのお供かしら?』



普段にない、妙にとげとげしい態度。


これはまずい。きっと由姫さまは、どこかであの噂を聞きつけられたに違いない。

そう勘づいた升は、身を翻して“誰かさん”の元へ走った。

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