第13話

しかし流鏑馬の日の一件を思い出すまでもなく、由姫は升にはとっくに慣れていると考えていいだろう。

最初からそんな気遣いは不要だったかもしれない。

むしろ慣れるべきは、このどこか掴み所のない若宮自身ではないかと思うのだが…



藤「弘」

弘「はい?」

藤「しかし私もそろそろ限界なのだ。文字だけでは物足りない。いきなり抱きしめずとも、せめて直接話がしたい」

弘「あぁ…それはそうですわね。手引きをしろと仰るなら、考えないこともないですよ」



もっとも、そうなったら升の君にもご協力いただきたいですけれど。

弘の言葉に、升も大きくうなずいた。






…毎晩毎晩この調子では、色っぽい展開になどなろうはずもない。

またため息をつき、同時にわずかに咳き込む弘姫。

それに気づいたのは、升の君だけだった。



藤「それにしても弘、ここは暑くないか?」

弘「狭い部屋に3人もいるのだから、仕方ないでしょう。いやなら上着をお脱ぎなさいな」



その途端、藤は本当に上着を脱ぎだした。

帯や袴もゆるめ、その場に寝転がる。



藤「はぁ~。これは楽だ」

升「若宮…いくら何でも弘姫さまに失礼でしょう、お起きになってください。脱いだものは私が車に持って行きますから」

弘「升の君、あなたも大変ね」

升「…いつものことです」






車へ向かう間、升は弘のことを考えていた。

先ほどのため息。

ゆるみきった若宮の態度。


…2人が世間で噂されているような関係ではないからこそ、気にかかる。

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