第12話
噂というのは、それも色恋沙汰は、いつの時代も尾ひれが付いて広まりやすい。
増川家の跡取りとして外へ赴くことの多い弘は、すでに心ない中傷や皮肉、非難の視線をさんざん受けとめてきた。
…いや、自分一人に向けられたものならまだマシだったかもしれない。問題は。
藤「弘。ご機嫌はいかがかな」
弘「…ようこそ、藤の若宮」
幼馴染みであり、大切な話し相手であり、同時に次の帝である彼―――
そして、太政大臣家の由姫にまで火の粉が降りかかっているという現実である。
しかし真実はどうかと問われれば、世間が噂(というか期待)しているようなことは何もない。
若宮が由姫との関係について、弘に相談しているだけのことなのだ。
同じように幼馴染みである升も交えての、気の置けない“対等な友人同士の関係”。
それは、弘が生涯独身を貫く身であることから生まれる気安さでもある。
弘「先日の絹織物、由は喜んでいて?」
藤「うん。さすがは弘の見立てだよ」
弘「あのねぇ、何度言えばわかるの。あれを選んだのも届けたのも、升の君でしょう」
せめてご自分でお持ちになればよろしいのに、とブツブツ文句を言う弘姫。
扉の前に控える升の君は、困ったように若宮と目を合わせて笑った。
升「弘姫さま。若宮は未だ由姫さまとお顔も合わせていらっしゃらないのですよ」
弘「えっ?まだ一度も?」
升「そうです」
藤「弘が教えてくれた情報が正しければ、由姫は片恋の経験すらないのに、今いきなり私から求婚されているわけだろう?いくら幼い頃一緒に遊んだ仲とはいえ」
弘「…まぁ、そうね」
藤「だから、まずは文のやりとりだけの期間を長めに取った方がよかろうと」
升「若宮の側近である私にも、なるべく慣れていただいた方がよろしかろうと」
だから2人の交際には、升の君が全面的に絡んでいるのか…。
そう考えて、弘は少し納得した。
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