第10話
由姫の耳にその噂が飛び込んできたのは、それから1ヶ月もたたない頃だった。
若い女房たちの口に戸は立てられない。
――えぇ!じゃあ若宮さまは弘姫さまと?
――何を言うのよ。うちの由姫さまは、帝も認めた正式なお相手じゃない。
――でも、神祇官家におしのびで現れる車には、必ず升家の若君がお供してるって…
――ということは、やはり?
部屋に、由が戻ったことにも気づかず。
――増川の御一族は、祈祷のために御所へ呼ばれることも多いしねぇ…
――2人きりで、何を祈祷しているのやら…
――キャ~!!///
――けれど、弘姫さまは次の神祇官よ。結婚はおろか恋愛も禁止のはずでしょう?
そう。弘も確かにそう言っていた。
――え、そしたら血筋は?どうやって増川家は“代々”神祇官を継いでいるの?
――知らないの?あの家は、祈祷力に優れた子供を何人も養子として、そこから跡継ぎを選ぶのよ。
――あぁ…そういうこと…
それも聞いたことはある。
幼い頃から、親子関係に気を遣っていた友人。
――でもそうすると、禁断の恋よねぇ。物語や絵巻物みたいで、少し憧れてしまうわ。
――あなた、何のんきなこと言ってるの?
――そうよ。うちの由姫さまの幸せを考えたら、弘姫さまには悪いけれど…
藤の若宮を、取り合えと?私と弘姫に?
…もし女房たちの話が真実だとしたら。
由『それならそうと、どうして正直に言ってくださらなかったのかしら…』
若宮さまも、升の君も…弘姫も…
――あ、あら由姫さま!
――これはこれは…もうお戻りでしたか。
由『ええ。どうしたの皆、そんなに慌てて』
――いいえ、何でもございませんよ。
――姫さま、お召し替えをなさいますか?皇太子さまから頂いた絹織物も、仕立てが済んでおりますが…
その場を取り繕うような女房たちの笑顔を見ても、逆に気持ちは下向くばかり。
若宮から送られてきた文や贈り物の数々が、急にみんな色褪せて見えてくる。
由『弘には、こんなものを送ったりせず…直接お会いになっていらっしゃるのね?』
だとしたら、どうしたら良いと言うのでしょう。
もう気持ちは戻れないのに。
こんなに、好きになってしまったのに。
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