二:みかき守…

第7話

秋。


藤の若宮が、正式に皇太子として(つまり次の帝として)披露される日がやってきた。

それは、彼の成人の儀式と立太子の礼が、同時に行われる日でもある。


幼い頃から優秀と評判の、しかも端正な容姿で女官たちからの人気も高い若宮のお披露目とあって、貴族たちは皆そわそわと落ち着かない。

しかし、当の本人にしてみれば…



藤「おーい升。升の君はどこだ!この装束は動きにくすぎる、何とかしてくれ」

升「お呼びですか?今忙しいのですが…あぁ、やはりお苦しいようで」

藤「いや、それは着る前からわかっていただろう…。全く、何枚重ねれば気が済むのだ?」

升「まぁまぁ。夜になるまでは我慢なされぃ」



そう言い残して、仕事に戻ってしまう升。

頼りの側近にまで見放された若宮は、がっくりとうなだれた。


身なりや持ち物に始まって、一挙手一投足全てが、しきたりや因習に縛られた式典。

いくら大切なものだと聞かされていても、実感としてはムダに長く堅苦しいだけだ。









ようやく終わった頃には、とっぷりと陽が暮れていた。

季節の虫たちが立てるどこか物悲しい音が、御所じゅうを取り囲んでいる。


窮屈な衣装を脱いだ藤は、未だ続く宴席の騒ぎを遠くに聞きながら、静かに横笛を吹いていた。

そばに座る升も、控えめに鼓を打つ。



升「若宮さま…いえ、本日からは皇太子さまですね。おめでとうございます」

藤「升にそう呼ばれると、何か変な気分になるなぁ」

升「しかし、これでもう御成人ということですから。遠からず、次は嫁取りということになりましょう」

藤「嫁?結婚しろということか?」

升「ええ。次の帝ともなれば、ぜひ姫を差し上げたいという家は多いですよ。まだ噂ですが、貴族のみならず武家からもお話があるとか」

藤「…しかし。私は…」



困ったように眉をひそめた主人を見て、升は思わず笑ってしまう。

思い出すのは、今日の式典にも揃って見物に来ていた、直井家と増川家の車。



升「まぁ、太政大臣や神祇官の姫君であれば、帝のお相手としても不足はないのでは?」

藤「な、何をいきなり…」

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