第5話
案の定、由姫は車に乗るが早いか貝を並べ始めた。
要はカルタ取りなのだから、読み手も含めて3人以上いないと成立しない遊びなのだが。
弘「まさか、自分で読んで自分で取るつもり?」
由『弘が読んでくれても良くてよ』
弘「…では、そうしましょうか」
そもそも、由姫は百人一首を全部覚えているのだろうか。数年前の正月には、たしか…
記憶を辿りつつ、弘姫は上の句を読み始める。
弘「瀬をはやみ…」
由『えーと、岩に流るる……、あら?』
弘「瀬をはやみ…」
由『その歌はよく覚えていないかも』
その歌は?その歌も、ではなくて?
弘「それなら次を。“大江山…”」
由『神代もきかず竜田川…』
弘「それは違う歌でしょう」
由『えぇ?』
むしろ、以前と比べて混乱度合いが上がってしまっているようだ。
これは早々に切り上げるべきだと判断した弘は、にこやかに別の話を振る。
弘「ほら、景色を見ましょうよ。あちらの野原は黄色く見えるけれど、何の花かしら」
由『………』
弘「干菓子も持ってきたのよ、どうぞ召し上がれ。それから簡単だけれど、絵を描く道具も。私は絵が下手だから、由に何か描いてもらいたいわ」
由『………………』
由姫は黙りこくったまま、口を尖らせている。
弘「でも、あまりのんびりしている余裕もないわねぇ。流鏑馬に間に合うよう、急いでもらいましょうか」
由『でも、あまり車が揺れてしまっては、貝合わせが楽しめないじゃない…』
弘「そ、そんなにやりたいの?;」
神仏よ、どうか哀れな弘姫に救いを…(笑)
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