第4話

弘「あのねぇ。仮にも年頃の女子ならば、この場合の興味は若武者の皆さんに向くのが自然というものよ?」

由『自然でなくて結構です』

弘「それでなくても、あなたの元には縁談が少なからず持ち込まれているというのに…」



おてんばとはいえ、成人したばかりで容姿もそれなりの、太政大臣家の一人娘。

引く手あまたなのは間違いない…が。



由『どうして弘が私の縁談まで知ってるのよ!』

弘「うちは代々、神祇官をつとめる家だもの。占いや祈祷に始まって、ありとあらゆる人生相談、人間関係、よそ様の秘密を聞くのも大切な職務のうちよ」



あなたの曾祖父母の代まで遡ったって、縁談をまとめてきたのは増川家ですからね。

そう言って、弘は華やかに笑った。

ゆるやかに肘掛けにしなだれかかる姿からは、すでに大人の気品が醸し出されている。



弘「まぁとにかく、行きましょう。外に出ないことには始まらないわ」

由『…そうね。それで、流鏑馬はどこで?』

弘「春日大社。お社の中には我が家の局があるから、今夜は泊まっていってくださいな」

由『やった!お泊まり!』



ぴょんと一つ飛び跳ねると、由姫はいそいそと楽しげに動き始めた。

急に“流鏑馬を見に行く”と言われた女房たちは、再び慌ただしく支度に取りかかる。





弘「あら?それは、貝合わせでは?」

由『ええ。春日大社まではかなりの距離でしょ、こういった遊具も持って行かなくてはね』


(貝合わせ:ここでは、百人一首を美しい貝殻に書き付けたもの。対の貝に上の句と下の句がそれぞれ分けて書かれており、カルタのようにして遊ぶ)


弘「それより、昼食とか着替えとか…」

由『それは女房たちに任せれば大丈夫』

弘「まぁそうだけれど」





この調子では、道中はろくに景色も見ずに、貝合わせ三昧になりそう…

その光景を想像し、弘は思わず笑みをこぼした。

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