第3話

由『でも弘、早くはない?昨日の文には“昼過ぎに着く”と書いてあったでしょう?』

弘「そのつもりだったのだけれど。急に、あなたと一緒に行ってみたい所ができたので…」



たおやかに微笑む客人につられたように、由姫もきちんと座って話を始める。

それを見て、女房たちも安心して席を外した。



「では、私共はこれで…」

「ただ今、茶菓をおもちいたします故」



しかし所詮は幼馴染み。

幼少期には、ともに庭で泥だらけになって遊んだ仲である。

女房たちの手前とりつくろっていた弘の上品な笑みも、2人きりになってしまえば…



由『それでそれで?楽しみだわ、どこに連れて行ってくださるの?』

弘「流鏑馬よ。あなた、たしか去年は見られなかったのでしょう?」



悪戯っぽく片目を閉じて、急な遠出に誘う。



由『あぁ…あの頃は少し体調を崩していて』

弘「だからですよ。それに、今年は私たちと同じ年頃の若武者たちが揃って“初陣”を飾るらしいから、見応えがあるはずだわ」

由『…ふぅん…』



しかし、うきうきと楽しげな弘に比べて、由の反応はいまいち鈍い。



弘「なぁに?興味がないの?」

由『ないわけないでしょう。馬上から弓を射るなんて、とても楽しいはずよ。でもね』

弘「でも?」

由『どうして殿方は皆参加できるのに、私はいけないのかしら!』

弘「…あなた、まだそんなことを…」

由『どうして女は弓を持ってはいけないのよ?』



弘は深々と溜め息をついた。

親同士の仲が良く、小さな頃から一緒に過ごしてきた由ではあるが、おてんばなところは本当に変わっていない。

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