第26話

…この酔狂な“1人4役”を最初に始めたのは、あの刑務所でのこと。

1人ぼっちになった俺が、世話役の子供たちと会ってからだ。



4人分の名前を彼らに教えた。

カレンダーの読み方も教えて、曜日によって呼び方を変えるように頼んだ。



…子供たちは、そういう遊びだとでも認識したのか、すぐそれに従ってくれた。







月曜と火曜は、ヒロの真似をした。

俺以外の誰にもわからないのに、それでも真似をし続けた。


あいつは元来が左利きだったからか、ギターにも俺とは微妙な差異がある。

真似をし続けているうちにちょっとずつ楽しくなってきて、俺は音を追い続けた。


ヒロは優しくて、根気強くて、時にものすごく的を得たことをズバッと言う。

でもたいがいはちょっとボケてて、やわらかい笑顔で。





水・木曜日はチャマの日。

さわる楽器はベースだけ。


あいつのベースラインは、とにかく動く。

特に初期の俺たちの曲を弾こうものなら…いや、あんな音は出せないけどさ。


性格的にはいつでも前向きで笑顔で、負けん気が強くて。

幼稚園の頃からずっとそうだった。

喋りも流暢に、ボケもツッコミも的確に。





そして金土は、秀ちゃんデー。

彼は無口な努力の人。

形見のスティックを目の前に積んで、リズムの練習をした。


人間的には、口数が多くないから真似は簡単かと思いきや、意外と俯瞰で物事を見ているのであなどれない。

笑い方もそんなにオーバーリアクションじゃないし、かといって抑えすぎてもいけない。





つまりは、全員難しかった。


けれど、みんなのことを思い出せば、それでもマネはできた。

似てる似てないはともかくとして。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る