第17話
「僕たちの故郷の星には、月がないんだ」
月が…ない?どういうこと?
訝しげにそう尋ねる俺に、子供は頑張って説明してくれる。
彼らの星で“月”に相当するのも、地球でのそれと同じく、衛星のことらしい。
それがある日を境に存在しなくなったのは、“些細な理由”による。
―――ずぅっと昔の王様がね、「月が亡くなればいい」って望んだんだって。
―――その日から僕らの世界には、お月様がないの。太陽だけ。
―――地球みたいな夜はないよ。お日様が翳って、影だけを照らす時間はあるけどね。
どうやらそれは、この子たちの星の伝説のようだ。
あるいは神話だろうか。
それにしても…、昔話と呼ぶには妙なリアリティがあるんじゃないか。
何しろ、目の前の子供は実際に月を見たのが初めてだと言うんだから。
いや待てよ、この伝説自体が与太話とも考えられる。
つまりこの子たちの星には、元々そんな衛星は存在しなかったと。
だからこそ、神話まがいの話が説得力を持つようになったのかもしれない。
「望」という漢字は、「月を亡くした王」と書く。
太陽が翳り、影だけを照らす時間をもたらした、伝説上の王様。
なんでまたそんなバカなことを望んだのか知らないけど。
…方舟が降りてくる直前にチャマが言った、「これじゃあ、影しか見えないよ」という声を思い出す。
半年前の静かな地獄の記憶が、脳内で暴れ出そうとする。
俺はゆっくりと頭を振り、寝床へ向かった。
だいぶ疲れてるみたいだ。
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