第11話
あの、太陽がおかしかった日。
人の影しか見えなかった日。
映画のワンシーンのように降りてきた宇宙船…方舟から、謎の病原菌がまかれた日。
あの日から1週間ほどのことは、今でも霞がかったような記憶でしかない。
街は何も変わらないのに、人だけがばたばたと逝ってしまった。
小鳥はさえずり、犬も猫も元気で、木々も風にそよいでいたのに。
建物も、町並みも。
太陽も月も星も、何一つ変わらずに。
いっそ爆撃でもされて、わかりやすく廃墟になった街を見せつけられた方がマシだった。
すべて壊されて、むりやり捕虜にされていたら、もしかしたら俺も今とは違った精神状態だったかもしれない。
なのに異星人たちは、事も無げにこう伝えてきたのだ。
何も暴力をつかわず、血の一滴も流さず。
「地球を正常な星に戻すため、ヒトという種には減ってもらった」
どうして俺が生き残ったのかわからない。
偶然だというなら、生きていることが幸運だというなら、俺は死ぬほど幸運。
…同時に、いっそあの病原菌で死んでしまっていた方が幸せだったと思えるほど、不幸だけど。
「チャマ」
壁のベースを手に取り、低い音を出す。
子供たちに、音を聞かせる。
…音楽とともに在ることを許されている俺は、幸福なんだと信じて。
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