第4話
この子とは少し意思疎通が出来る。
異星人の皆さんは、基本的に「音」として聞こえる言葉を発しないようだ。
と言っても、べつに喋れないわけじゃなくて、コミュニケーションの手段として“会話”を使用しないだけ。
それでも日常生活に不自由しないのは、一種のテレパシーみたいなものを使うからだ。
もちろん俺も使う。この方舟の中では、使わないと生き抜けない。
ここへ来てすぐ、何やら怪しげな装置を見せつけられた。
血圧測定に使うような分厚い布を、腕に巻かれた。
それが、テレパシー的な能力を発現させるものだったらしい。
変な感じはしたけど、そこまで派手には驚かなかったかな。
言語を使うようになる以前の、人類の祖先も、テレパスに近いことをしてたらしいからね。
「フジクン」
もう一度そう言って、子供は少し表情を動かした。
笑ったんだと思う。
言葉だけじゃなく、感情表現もほとんど使わない異星人の群れに、最初は本当に戸惑った。
それでも、何とか分かり合えないかと思い、色々話しかけた。
なるべく表情も豊かにして、わざとらしいほど熱心に、喜怒哀楽を伝えた。
そうしているうちに、人間の世話をしてくれている子供の1人が、俺のマネを始めた。
声を出して、身振り手振りをつけて、表情を出して。
それは、あっという間に子供たちみんなに広まった。
たぶん、珍しい遊びか何かに思えたんじゃないかな。
子供の方がそういうのに適応するのが早いし、目新しいものにも好奇心を示すし。
そこに例のテレパス装置の威力が加わって、俺は子供たちとの意思疎通に成功した。
それから、もう半年近く。
俺は、ここで生きている。
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