第26話

俺の家に着いたらすぐ、玄関先で靴を脱ぐ間もなく抱きすくめられた。



直『…藤くん、俺は男だよ』

藤「知ってる」

直『ついこないだとはエライ違いじゃん』

藤「…気づいちまったもんはしょうがない」

直『つくづく勝手だねぇ』



その指や服から漂うタバコの匂いで、ふとヒロの唇を思い出した。



直『ヒロとね、キスしたの。フランスで』

藤「きっ…!?」

直『あとねぇ、恋が終わった後の男女の違い、みたいな話もしたな』

藤「…ぁんだよ、それは…」

直『ヒロが言うにはね…』



説明しながら、俺はくすくす笑う。



藤「ふーん、そういうことか…」

直『今考えてみると、俺は男で良かった』

藤「どうして?」

直『男は、いちいち“名前を付けて保存”だもん。これから先の俺は、藤くんフォルダで埋め尽くされてくんじゃない?』

藤「…そっか。サンキュ」



藤くんのことが好きな俺。

俺のことが好きな藤くん。



直『あっそうだ、これあげる!』

藤「…?ありがとう。でも何これ?」

直『栗だよ栗!ベルサイユで拾ったの♪』

藤「くり?……これだけ?」

直『あ、栗だけじゃ不満ですか?何かブランド物とかの方が良かった?』

藤「いや、おまえが帰ってきてくれたことがいちばんの土産だよ」

直『なっ…!!』

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