彩雲

第25話

事務所では、これまでの人生でいちばんっていうくらい頭を下げた。


スタッフはみんな揃って苦笑していた。

そして、藤くんの言ったとおり「何でもなくて本当に良かった」と言ってくれた。








久々に4人並んで歩く東京は、雨上がりできらきら光っているように見える。



直『ねぇ藤くん、パリに2回目に電話くれた時さぁ、どうして俺とヒロが一緒にいるってわかってたの?』

藤「推理力、推理力」

升「いやハッタリだろ。あの状況なら蓋然性が高かったってだけで」

藤「…まぁ」

増「どっちにしても、あの状況でいきなり怒鳴られるのって怖いよ。マジで」

直『うん。俺、藤くんがいきなりドアの前に立っててもおかしくないと思ったもん』



わいわい喋りながら雲を辿る最中、ヒロが俺にこっそりささやいた。



増「あのことは秘密ね」

直『OK』

藤「何が秘密だって?」

直『!?……耳いいっすね……』

藤「何だよ…おい、何があったんだ?フランスでのたくってた時か?」

増「そんな言い方しなくてもいいじゃない」



にやりと笑ったのは、さんざん振り回された仕返しという意味だろうか。



増「ごちそうさまでした♪」

藤「てめ…待て!チャマに何したんだ!?」

増「絶対あれは俺だけのせいじゃないよ!じゃーねー、俺帰るから!秀ちゃん、行こっ」

升「お、おぅ。じゃあな2人とも!」

直『…俺らも帰ろ、藤くん』



何なんだよ一体、とぶつぶつ言う背中が妙に可愛くて、俺は彼の腕を取った。

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