第22話

増「チャマの荷物、何が入ってんの!?超重いんだけど!」

直『し、しょーがねーじゃん!』

升「藤原、タクシーつかまえとけ!2台!」



秀ちゃんの言葉を受けて、藤くんが雨のなかに飛び出していった。背後にはまだキャーキャー騒ぐファン(?)の声が聞こえる。


1台目のトランクに荷物を放り投げた後、俺は藤くんに押し込まれるようにして、後部座席に転がりこんだ。

それを見届けたヒロと秀ちゃんが、2台目に飛び乗るのが見える。

…これでなんとか大丈夫、かな。








行き先を告げて走り出した後しばらくは、車内を沈黙が支配していた。(主に展開の目まぐるしさによる疲れで)

が、そのうち俺たちは、運転手さんにも聞こえないような小声で話し始めた。



藤「なぁ。おまえベースどうしたの」

直『え?ぁ…もしかして家に行った?』

藤「……ごめん」

直『あ、いや、勝手なことしたのは俺だし、別にいいんだけど』



正直、家まで行っちゃうほど気にしてくれてたのかと、幸せな驚きがあった。



直『旅行の間にメンテしとこうかと思って…まとめていつもの所にお願いしといたんだ。帰ったら取りに行く約束で』

藤「じゃ、あの額縁は?」

直『あー…歌詞か』



実は“諦めなければ”という決心をぐらつかせた最大の要因が、あれだった。

恋でも愛でもなくても、藤くんが俺を大事に思ってくれていることの象徴。



直『捨てちゃあいませんよ』

藤「…そりゃおまえ、そんなことされたら俺まで捨てられたみてーじゃん」

直『ふふ…大丈夫、しまってあるだけ』



そう言ったら、藤くんが手で口元を隠すのが見えた。たぶん、きっと、笑ってる。



直『嬉しい?』

藤「…べつに」

直『じゃ喜んでる?』

藤「…それ一緒だろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る