第21話

どれくらい時間がたっただろうか。俺を抱きしめ続けていた藤くんの手が、ふっとゆるんだ。

俺もほぼ同時に、その肩に埋めていた顔を上げ、周囲に視線を向ける。と、そこには。


…ヤバイ!!そう思った瞬間。



増「はいカット!!」

升「いい演技だったぞー、2人とも!」



ヒロと秀ちゃんが駆け寄ってきた。滅多に見られないくらい全開の笑顔で。

そしてその笑みを顔に貼り付けたまま、俺たちの耳元に向けてささやく。



升「チャマ、そのまま振り返らないで聞けよ。おまえのちょうど真後ろに、女の子2人組がいるんだけどな」

増「うん、あれがいちばんヤバイね。写メとりまくってる…っていうか1人は動画かな。ずっと携帯まわしっぱなしだから」



しゃがみこんだ状態で藤くんに抱きしめられてたから、文字どおり周りがまったく見えてなかったんだけども。

気がつけば俺たちは、かなり衆目を集める、立派な見せ物になっていた。



増「はい藤くん、もういいよ。お疲れ!」

升「やー、撮影って大変だよな!!」



…ここは国際空港。そして俺たちは、意外と世間に認知されてるミュージシャン!!




――ねぇ見て!あれ藤くんじゃない!?

――きゃーっ、嘘!?

――やだぁ、ヒロもいる~!

――あっ、チャマだぁ!




増「ほら、行こ!早く!」

升「荷物よこせ!走るぞ!」






周りにスタッフもいないのに、撮影だの何だのって言い訳がいつまでも通用するとは思えない。

俺たちは、さっきの藤くんにも負けないくらい大急ぎでその場を離れた。

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