第20話
雑踏が、涙でぼやける。周りで音はしているはずなのに、静けさで耳がガンガンする。
ついに耐えきれなくなってその場にへたり込んだ俺を、藤くんがやわらかく受けとめてくれた。
藤「最高の告白をありがとう」
直『…本当にいいの?わかってる?俺が本当はどれだけ藤くんのことばっかり考えてるか…』
まだ不安で、そう聞くと。
藤「うーん。あえて陳腐な言い方をするなら、なくして初めてわかった…ってとこかな」
そんな答が返ってきた。
直『それはまた…ほんとに陳腐だね。藤くんともあろう人が…』
藤「しょうがねぇだろ。おまえがいないと…なんか、うまく笑えなくて。おまえが俺以外のやつの前で笑ったり泣いたりしてるのかと思ったら、レコーディングどころか、曲も詞も書けやしないし」
ええっ!?
直『それはまずいよ、一大事じゃん!』
藤「ったく…教えてやろうか?俺がロンドンでどれだけ無駄な時間を過ごしてきたか」
直『えええ~~、やだよ、やだやだ!!藤くんの曲がなかったら、俺だって生きていけない!!』
それは本音だったけど、口に出したらずいぶん他力本願な生き方に思えてきた。
まずいな。俺いつからこんな後ろ向きな考え方するようになったんだ?
藤「ずいぶん卑屈な言い方するんだな。おまえ、俺がいなくなったらベースやめんの?」
直『う…ん…、正直わかんない。だって藤くんがいない状態で弾いたことってないし』
ふむ、と彼はうなずいた。
藤「それもそうか。じゃあさ、俺の曲のベースは全部おまえが弾いてくれよ?」
直『そりゃもちろん!他のヤツになんか任せられっかよ!!』
そうして、2人で笑った。
まだ涙が残る顔で、それでも笑った。
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