翠雨
第19話
―――由文っ!!
ものすごい声量だった。マイクも通してないのに、彼がこんな大声を出せるのだということを初めて知った。
しかも、ありえないほどのスピードでこっちに走ってくる。
驚きで棒立ちになった俺は、そのままきつく抱きしめられた。本当に、息も出来ないぐらい。
直『なっ…!?ふ、藤く、何すんっ…』
藤「俺以外のやつに笑うな。俺以外のやつと喋るな。俺以外のやつを、大事だなんて思うな!俺以外の……っ」
直『やめろよ!さわんな!』
必死でもがく。全力で暴れてるはずなのに、それでもその腕は俺を離そうとしない。
藤「これが恋かどうかなんて知らねぇ。わかんねぇ。ただ、」
…おまえが好きなんだ…
耳を疑った。意味がわからなかった。
仲間である以上、俺を含めた3人とは絶対に付き合えない。
そう聞いたのはついこの間のことなのに。
どうして?どうして今さら?
藤「頼む。俺のこと好きじゃないなんて、言わないでくれ…」
直『何なの藤くん…勝手だよ。おまえずるいよ、そんなの勝手すぎじゃねぇか!』
俺が一世一代の決心で諦めようとしてるのに。なんでそんな、いとも簡単に。
直『離せっ…、自分で言ったこともう忘れたのかよ!男だろうと女だろうと、俺とは付き合えないって、そう言ったのおまえだろうが!!』
一瞬力がゆるんだところで、思いっきり突き飛ばした。にらみつけたその瞳に涙が溜まっているのが見えて、身体が震える。
好きだと思う。今までも、これからも、一緒にいてもいなくても、ずっとずっと。
本当の意味で諦めることなんて、おそらく一生出来ないだろう。…でも。
直『ふざけるな。おまえ結局、今まで好きだ好きだってつきまとってた俺が急にいなくなったから、淋しいだけじゃねぇか』
たとえ藤くんが相手でも。
いや、藤くんが相手だからこそ。
直『俺の気持ちはそんな軽くねぇよ!もっとドロドロしてて、おまえが引くぐらい重たくって、長い間続いてて、気持ち悪ぃんだ!自分でももう…、どうしようもねーんだよ…!!』
―――こんな愚かな自分を、知られたくなかった。
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