第17話

ヒロや秀ちゃんとひととおり喋ってから、視線を少し先に向ける。そこには、俺と同じタバコをくわえた人が立っていた。



藤「………」

直『………』



何を言ったらいいかわからない。笑えばいいのか、謝ればいいのか。

声も出せず下を向く俺に業を煮やしたのか、彼は黙って俺の荷物を持って歩き出した。



直『あ、待っ…』



どんどん進んでいく後ろ姿を追って、少し離れた場所まで来た。と、急にその足が止まる。

振り返った双眸を、その日初めてまともに見た。



藤「…おかえり」

直『た…だいま…』



何の色も感じられない、お互いに感情を伝えることのない会話。

どうしよう。とにかく、もう迷惑はかけないからと伝えなければ。そして、心配させてしまってごめんと。これからも仲間として一緒に居たいから。



直『あのね、藤く…』

藤「なぁチャマ」

直『…何?』

藤「あの話。俺がロンドン行く前の夜に言ってたことなんだけど」

直『あ、あぁ、うん。ちょうど良かった。俺もさ、そのことで話があるんだ』

藤「…なに」



勇気を出せ。俺のためでもあるし、何よりも藤くんのためだろうが。



直『ごめんね?あの時、変なこと言って。あれさ…よく考えてみたんだけどさ、なんか気の迷いだったみたい』

藤「気の…迷い?」

直『うん。藤くんが言ったとおりだよねぇ、俺ら4人が特別な…ってのもまた気持ち悪い言い方だけど、そういう関係なのは事実だもんね。今さら恋愛とか言われてもワケ分かんないよね、しかも男同士なのにさぁ』

藤「待て、おまえ…。じゃあ、もう俺のこと好きじゃねぇってのか?」



今だ。このタイミング。



直『そりゃそうでしょ。俺らまだ若いんだし、ずっと一つの恋にしがみつきっぱなしってのもバカらしいじゃん?』

藤「……」

直『ホントごめんね。でももう心配しないでいいよ。俺がそういつまでも、藤くんのことばっかり考えてると思った?』

藤「……………」






そして俺は、藤くんの手から荷物を引き取り、きびすを返した。


良かった。涙も出ない。

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