春雷

第16話

タバコの封を開けたのは、日本に帰りついた直後、成田でのことだった。






俺は結局あれから1週間ほど、1人でイギリスにいた。

二階だてバスも乗ったし、郊外も散策したし、パブにも行ってみた。



――きれいだな。藤くん、これ見たかな。

――へぇ、ここってライブもやってるんだ。藤くんも聴いたかな?

――衛兵交代の音とかリズムって、けっこう独特で面白いじゃん。

――何これ、食い物?藤くんにも食わせてやりたいな。日本に持って帰れるかなぁ。



諦めるなんて、口で言うのは簡単。実行出来るかどうかは、俺の決心ひとつにかかっている。

…それでも、「出来るかどうか」じゃない。諦めなければ。






出発前にこの空港でヒロが手渡してくれた、細身のタバコをふかす。藤くんがいつも吸ってる銘柄だ。


もう1箱はヒロが旅行中に吸っていた。彼と交わした1度きりの口づけは、だからこの煙の味がした。

仮に藤くんとキスしたら、やっぱり同じ味がするのだろうか。



直『なーんて…キスなんかするわけないのに…』



しっかりしろ、俺。

自分で自分を叱咤しようとしたその時、少し離れた場所から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。



直『ヒロ!』

増「おかえり~」

直『おぅ、ただいま!お迎えご苦労!』

升「…おかえり」

直『ただいま…。ごめんね、秀ちゃん』



怒ってるわけじゃなく、ほっとしたような顔。本当に悪いことをしてしまったと思う。



升「まぁ、大体のところはヒロから聞いたから。でももう、これっきりにしてくれよ?こっちは心配してたんだぞ」

直『うん…』

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