第15話

4人がそれぞれ1人暮らしを始めたばかりの頃、不在の主から聞いた言葉を思い出す。



直『藤くん、すぐアレルギー出ちゃうからねぇ。俺んちもカーペットは敷かないことにするよ』



…この部屋は、いつでも彼をあたたかく受け入れてくれた。…はずなのに。



直『…ごめんね。俺もう必要以上に藤くんを意識するの、やめるから…』



―――勝手なこと言うな。おまえはいつだって、俺のことが最優先だったじゃないか。


じゃあ、そう言う自分はどうなんだよ?

内なる声に、彼自身も可笑しいくらい動揺する。






さっきの“何か足りない”という感覚の原因に、ようやく思い当たった。


壁にかけられていたはずの額縁がないのだ。いつか、彼がプレゼントした詩が。

どう見ても不相応な額に入れられた、あの人のためだけに作られた唄が。




家全体がぼんやり見える理由が、急に生々しく迫ってきた。メガネをかえたところで、この空虚な所在なさは消えないだろう。


この部屋は、ここに住む人間は、もう彼を積極的に受け入れようとはしていない。


増川の「自分がどんなに愛されてたか、感じてみろ」という言葉が思い出される。




…彼は、知らなかった。“彼のことを好きではない直井”というのが、一体どういうものなのか。


なぜなら、出会ってからこれまで一貫して、直井は彼のことを好きだと言い続けてきたのだから。




―――愛されていて当たり前。

―――あいつはいつでも俺のことを一番に考えて、それが当たり前。




それがどれだけ贅沢な事実かということに、全く気づかずに。






目の前が、暗く沈んでいく。






藤「チャマ…」

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